今日と明日をつなぐ藍色の夜。
静かな寝息をたてるあなたの隣で、僕はふたりが通り過ぎてきた朝の色を思う。
いさぎのよい闇が重なる白色にその場を譲るころ、始発電車に向かう坂道をおりる。その名づけようのない美しい色に、ふたり並んで言葉を無くした東の空。
初めての日の出を待った海岸沿いのパーキング。わずかな雲の切れ間に見えた奇跡のオレンジに、あなたは涙で応えたね。
昨日と今日の境界線は、ときにグラデーションのように、ときにカウントダウンの歓喜と共に、数えきれないギフトを僕たちに届けてくれた。
色のない朝、泣きながら裸足で家を出たあなた。
雨に濡れた公園のブランコで、ダークグレーの空をみあげていたね。あなたをおぶって帰る道で、僕はその空の向こう側に鮮やかな光の気配を感じることができた。
宝物を胸に抱いて、あなたが泣きながら微笑んだあの日、僕はまだ父親になれず、駐車場の車のなかで朝を迎えた。
いくつもの感情が入り混じったあの雲の色を正しく伝える言葉も見つからないまま、その役割もそろそろ終わりかな。
あなたを起こさないように、ぼくはゆっくり体の向きをかえる。
朝まで飲み明かすことはもうないけど、新しい太陽は眠りの中で静かに迎えるけど、僕たちは今夜も寄り添って、今日と明日の境界線を越える。
あなたの小さな寝言。
僕はそっと髪に触れる。
ふたりの始まりからもう40年。
メールもラインも知らない16歳の僕たちにはつながる術もなく、メッセージの届くはずのないそれぞれの場所で深い夜を過ごした。
次の朝、学校の駐輪場で僕に駆け寄ってあなたは言ったね。
「ゆうべはありがとう」
その顔はとても眠たそうで、でもキラキラと輝いていた。
生まれたての朝の光みたいに。
あのころ僕は何も持っていなかったから、一枚の葉書に思いをのせた。
そして僕は、静かに胸を踊らせてその時刻を待つ。あなたに送るリクエスト曲がスピーカーから流れるのを願いながら。
あなたがゆっくりと寝返りをうつ。
もうすぐ午前1時。僕たちをつなぐラジオが始まる。